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◆火遊び

今日は父の誕生日。
父の名前は俊二。

父は甘いもの中毒。
私以上に。

糖質と認知症は関係あるという説があるが、父は確かに認知症に近い。

しかし、父は遂に決断したのだ。
「俺のボケと甘いものをやめられないのは関係あると悩んでいる」
と、打ち明けてきたのだ。

3日前のことだ。

ちょうど私は断糖をしていて、甘いものに興味が急激になくなったので、「じゃ、断糖に協力するよ」と申し出た。

私「だけど、本気なの?」
父「俺は本気だ!やると決めた!」

父の目には、いつになく強い意志が宿っていた。

それなら、と私は一昨日から食事を作って運ぶことにした。
(同じマンションの違う棟に住んでいる)

朝食と昼食を朝つくり、運ぶ。
夜は、母が作る。

私はこう言った。
「痩せる必要はないから、甘いもの中毒を直すだけでいい。それなら3日間あれば大丈夫」
「そのかわり、3日間だけ集中してやってみて」

父「俺はやるぞ!」

いいね。
やる気満々。

私はkindleで読んだ『断糖のすすめ』をプレゼントしようと思い、本屋に行ったが、取り寄せだった。

それなら、メルカリで買った方が早く届くので、
メルカリで買った。

著者の名前に「俊二」がつくので、シンクロだ。

1日目の朝、食事を持っていったとき、伝えた。
「ご飯もパンも麺も3日間は食べないで。
どうしても食べたくなったら、この断糖パンは大丈夫だから」

断糖パンも渡した。

父は「わかってる、わかってる」
と言った。

前日に、別の本を買ってプレゼントしていた。
読む場所に付箋を貼り、食べていいものダメなもの一覧表も作成して渡した。

1日目の夜、父に電話した。
私「今日どうだった?」
父「作ってもらったものは全部食べた」
私「そう。ご飯食べてないよね?」
父「もちろんだ」
私「夕飯も、ご飯は食べたらダメだよ」
父「わかってる、わかってる」

2日目も同様だった。
2日目の夜も電話して、同じ会話がされた。

◆そして今日、3日目。
今日が終わったら、感覚が変わるはずなので、明日からは、少しずつ糖質を増やし、お菓子類はなるべく食べないように意思の力でコントロールできるはず。

糖質中毒は、意思の力が及ばなくなることが問題だ、と思っている。

今日は、朝からコンサルが入っていて、3件ぶっ続けだった。

しかし、今日で3日間が終わる。
私は慌しく、朝からサンマを焼いていた。
因みに、サンマは、焼く前に、強火で5分ほどグリルを温めておくと、ふっくら仕上がる。

サンマの細かいウロコをとり、塩を振り、温めておいたグリルに、サンマを投入。

10分後、サンマを取り出して、お皿に盛った後、グリルの扉に右手が触れた。

アッツッッ🔥🔥🔥

と引っ込めたときは遅く、ミミズが張ったような線が入った。
強火で温めておいたので、普段よりグリルは温度が高くなっていた。
このあと、水膨れになるだろう。

が、コンサルが始まるので、処置をする時間がなかった。

私は慌しく部屋を出て、父のいる棟に急いだ。

しかし、エレベーターの前で愕然とした。
なぜか、父の棟だけ、エレベーターの点検で使えないのだ。

父の階は17階。

あと5分後にコンサルが始まる。
今日のクライアントさんは、コンサル後、用事があり、終わる時間が決まっているので、遅らせてもらうことはできない。

今日は朝食を運ぶのはやめとくか?

ジンジン、と火傷が疼く手で、朝食を持ちながら、一瞬考えた。

が、今日で3日間が終わる。
ここで諦めたら、父の認知症は進行し続ける。

私は覚悟を決めて、1階から17階まで、一気に駆け上った。

私は昔、陸上部で長距離選手だった。
実は、バリバリの体育会系の血が私の中に流れている。
ハードな練習ほど燃えるドMだ。

階段を駆け上りながら、
私の足の速さは父譲りだったことを思い出した。

私の中に父のDNAが流れている。

待っておれ〜!
父よ!

昔、陸上の大会で走る時にいつも鳴るテーマソングが頭の中で響く。

17階に着くと、インターホンを鳴らす。
息を切らして、手渡す。

私「ご飯、パン、麺はダメだよ。どうしても食べたくなったら、断糖パンはいいよ」

父「もちろんだ」

よし!
ミッション完了。

私は17階から1階まで、階段を駆け下りた。
そこから全力疾走で、自分の部屋に戻り、
コンサル時間1分前にはパソコン前にいた。

私は何事もなかったように、コンサルを始めた。

2時間後、クライアントさんに、とても喜ばれた。
「シンクロちゃんを何度も読んでいたけど、今日初めて、本当の意味がわかりました!」

その後も、休む間もなく、次のコンサルをして、ジムに行き、ようやくホッとできた夜。

というか、慌しすぎて、火傷の処置をしていなかったことを思い出した。

そうだ、父にも電話しないと。

私「どうだった?今日で3日間終わるよね」
父「うん、作ってもらったものは全部食べたよ」
私「今日の夜でラスト。気を抜かずに、ご飯は抜くんだよ」
父「おう」
私「今日の夜は何を作ってもらうの?」
父「(電話口で母に向かって)今日の夜はなんだ?」

母が電話にかわる。

母「今日は、肉と野菜の炒め物」
私「いいね👍ご飯食べてないよね?」
母「毎日食べてるよ」

目の前が真っ暗になった……。

私「え?嘘だよね。ご飯は食べたらダメだよ、って言ったら、わかったって…」
母「ずっと食べているよ。コーラもガブガブ飲んでいるし」

オーーーーーーーイッッ🔥

父に電話に替わってもらい、確認した。

私「ご飯は3日間だけ我慢して、と言ったよね」
父「聞いてないぞ〜」

のんびりと返事する父。
……。

今日の朝、奮闘していた私の情景が、走馬灯のように駆け巡る。

3日間、なんだったんだ……。

そうか、父にとっては火遊びだったんだな。
火傷はそのサインだったんだな…。

ガックリと肩を落とし、
トボトボと1階のポストを見にいくと、メルカリから本が届いていた。

今日は父の誕生日。
父の名は俊二。

私は、父と同じ名前の著者が書いた『断糖のすすめ』を、届けに行った。

右手は見事な水膨れ。

遊ばれた女の物語。
おしまい。

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