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◆注文の多いパフェ店

「ピープルピープ」…このお店のパフェより美味しいパフェを私は食べたことがない。
他のどの有名店も、ここのこだわりのパフェには足元にも及ばない。

いま住んでいるマンションに近い。
が、近くて遠い存在だ。

知る人ぞ知る札幌のパフェ店「ピープルピープ」……
だったはずが、SNSの発達により拡散されて、今や札幌で最も敷居の高いお店になってしまったようだ。

少なくとも、15年〜20年前は、並ばなくても入れる日があった。
しかし今や、毎日5時間〜9時間並ぶのは当たり前……らしい。

確かに、店の前はいつも長蛇の列で、札幌に移住したら真っ先に行きたかったのに、未だに入れていない。

因みに、「パイとケーキ」と書いてあるけど、実はお店の名前と全く関係ない(笑)。
お店の名前は「ピープルピープ」で、パフェのお店である。

入り口から突っ込みどころ満載だが、入るとそこは完全に異次元ワールド。

このお店は浮世離れしたマスターが一人で切り盛りしていて、だからかトイレはお世辞にもキレイとは言い難い。

店は、地下倉庫をそのままお店にしたような雰囲気で、薄暗い。

テーブルの上には、マスター手作りの「哲学新聞」がメニュー表の横にある。

マスターが注文に聞きにくるのがかなり遅い。
1つのパフェを、5時間かけて作るからである。
バイトを雇えばよいのに…と普通は思うが、そんな一般論はこの異次元ワールドでは何の役にも立たない。

やっと注文をとりに来たと思いきや、2時間後にパフェはくる。

とにかく、こだわりが凄い。
全てを手作りで、季節のフルーツは、マスター自らが仕入れに行く。

ここは週3日休みだが、おそらくこのマスターは、休みの日も仕込みをしているはずだ。

開店しているはずの日に行くと、「closed」の看板がかかっていて、下にマスターの手書きの字が書かれている。

「ブルーベリーを摘みに行くので今日は休みです」

◆このお店はとにかく客に対する注文が多い。
お店のテーブルはもちろん、入り口にもたくさんの約束ごとが書かれている。

コロナになるずっと前から
「風邪の人は入店禁止」というルールがある。

お店の中で咳をするときは、必ず口を覆う必要がある。

リスクマネジメントはしっかりしている。
トイレはキレイじゃないけれども。

トイレ掃除くらいバイトを雇えばよいのに。
という一般論は、もちろん異次元ワールドでは通用しない。

ここはマスターの聖域であり、何人もマスターのルールに従わないといけない。

それから「絶対にここのパフェを食べるまで帰らない」
という強い意志を、マスターに示す必要がある。

店の前で並ぼうとするときが、肝心だ。

マスター「かなり待ちますよ」
客「どのくらい待ちますか?」

ここで、試合は終了を余儀なくされる。

マスターから「帰ってください」と言われる。

客「何時間でも待ちますので大丈夫です」

これが言えたら試合は続行だ。

しかしまだまだ油断はできない。

マスター「でも終電に間に合わないかもよ。やめたら?」

ここで怯んではいけない。

客「終電逃しても、ここのパフェを食べます」

ここでようやく並ぶ権利を手に入れるのだ。
開店と同時に1巡目の習ぶ権利の争奪戦が始まる。

◆他にもネタは尽きないくらい、マスターのキャラは際だっているが、私を含め、多くの人が一度はこんな疑問を抱いたことがあるはずだ。

「マスターは結婚しているのだろうか」

それくらい独特な存在感を放っているのだ。
マスターの私生活は謎のベールに包まれている。

たくさんの人混みの中に、マスターが紛れていても、視力0.01の私は見つけられる自信がある。

マスターの半径1メートルだけ異次元だから、
絶対にわかる。

1度だけ私は、仕事以外のマスターを見たことがある。

あれは……たしか2007年の春だ。
私はロースクールを卒業したものの、法律は続けないだろうことを知っていながら、まだ明確には将来を決めかねていた時期だった。

ブログを書き始めて数週間経っていた。
その頃の私は、カフェやファミレスに行き、ネタを収集していた。
隣のカップル、熟年夫婦、女子の雑談をずっと聴いていて、どう切り取ったら面白い記事になるのか、などを延々と考える日々だった。

ある日の夜。
私は街中のモスバーガーにいた。
ソファー席に座り、コーヒー一杯で、ずっと思索していた。
何となく入り口に目を向けた時、
マスターの姿が突然目に入ってきた。

マスターの私生活!
謎のベールがいま……

マスターはレジ前に並び始めたところだった。
隣には奥さんと思しき女性、そして小さな男の子がいた。

マスター、結婚していたんだ!
モスバーガーを食べるんだ!
休日はこだわりの食材で食事をするイメージがあったが、ファーストフードなんて食べるんだ!

私は驚いて、もっと知りたくなった。
席を慌てて立つと、マスターの後ろに並んだ。
異次元の人が、一体どんな会話をするのか興味があったのだ。
一体何を注文するのか気になった。

妄想が膨らんだ。

聞き耳を立てたものの、残念ながら会話の内容は聞こえなかったが、
普通にハンバーガーとジュースを注文したのは見届けた。

お持ち帰りだった。

その後私は、注文する予定のなかったハンバーガーを注文して、閉店まで居座った記憶がある。

あれは奥さんではなく、妹と妹の子供だったのではないだろうか、などと考えもした。

遠い存在だったマスターが一瞬だけ近くなった日だった。

あれから13年。
あのモスバーガーの隣には東急ハンズがあったが、今は移動してしまった。

でも、ピープルピープは変わらず存在していて、ますます有名になっていて、
ネット情報によると、ますますルールが増えているようで、異次元ワールドは健在だ。

昔からのファンは嬉しい限りである。

近いけど遠い存在であり続けてほしい。

因みに、マスターは、パフェを食べ残した人の顔は、何年経っても忘れないらしい。

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